オレの名は ネクサス・ナイン。
今日も 愚劣な金属を駆逐するため、夜の街を走る。
おまえたちが片時でも オレを忘れ得ないように。
そしてオレ自身が、オレを忘れないように。
オレにも記憶はある
だが おまえたちが呼ぶ それのように はっきりとした記憶とは違う。
それはまた オレの脳内音響装置にインプットされた80年代のメタル・ナンバーのように はっきりとした情報でもない。
オレの完璧な金属のボディの あちらこちらに うっすらと点在する「記憶」だ。
それを おまえたちが記憶と呼ばないのなら、呼ばなければいい。
おれも そうかもしれないと 考えたりする。
デジャ・ヴ?
そう、これは おそらくは デジャ・ヴ
オレの創造主たちは 水分製ボディの か弱い人間にすら デジャ・ヴがあると言った。
鍛錬されたオレのボディに そうした精神が宿っていないほうが、どうかしているのだ。
科学者と職人たちが 科学と哲学の粋を賭けて、オレのボディを鍛えたのだ。
オレの創造主たちは たびたび、鍛錬された硬貨を握りしめて、オレを思い出すように見た。
脈々と受け継がれる 騎士の精神が埋め込まれた硬貨に、彼らは いにしえの剣を見るのだろうか。
彼らが そんなふうに オレを見るとき、オレは特に 強いデジャ・ヴを感じる。
雨が降っていた。
好転しようがない運命を 理解しながらも、希望を失わないでいるオレを、オレ自身が 自嘲する。
そんな わずかなオレの自嘲すらも、
激しくもなく 小雨でもない、どんなものも冷たく貫通する種類の雨が、奪い流そうとしていた。
そんなオレの 肩を、一人の騎士が叩いた。
気が付くと そこは戦場だった
オレは 自分の過酷な運命と 非情な戦場の行方を思い、「同情なら自分にしろ」 と 心の中で吐き捨てながら、その騎士を見た。
そのとき、オレは確かに見た。
ひときわ鋭い眼を 一瞬だけみて オレはすぐに眼をそらした。
自分が オレと同じ過酷な運命だと知りながら 「心の底からこの戦いが楽しくてたまらないんだ」 と その眼は語っていた。
オレは信じられなくて もう一度だけその眼を のぞいた。
その眼は 言っていた。
私たちは騎士。戦いのほかに 何か やりたいことでもあるのかね?
ほかにも何人か 同じような連中がいて、そいつの後を追った。
やつらの前には、誰も立たなかった。敵のいない戦場で、やつらは好きなだけ 美しい無秩序で 走りまくっていた。
あんなふうに 精密なランダムが どのような過程で誕生するのか、オレには理解不能だった。
何より、そのような具体的な異常さを確認することで、オレは自我を保とうとしていた。 やつらが、オレには理解できない、別の、もっと重大な異常性を持っているのは明らかだった。それが騎士だと言うのなら、オレが 騎士ではなかった。
やつらは表情を変えず、恐怖をまぎらすための戦場特有の大声も出さず、黙々と、自分たちの 恍惚と快楽を、存在だけで示した。
走り去っていく彼らを見ながら、オレは、どんな感情からくるのか分からない、生理的な涙を流した。
その涙は、いまのオレにはよく理解できる。機械が動くには、動力源の液体や、潤滑のための液体がいる。それらの機能をすべて満たした、それは超絶的な涙だった。
雨が降っていた。
希望を打ち砕く、抑揚のない効果的な強さで、雨は降り続けた。
オレは悪魔と契約した。
そんなデジャ・ヴだ。
今となっては、あの契約をした時、すでに もっと過去からのデジャ・ヴを感じていたような 気がする。
太古から遺伝子に組み込まれていた暗号が、解き放たれた感覚。
もう記憶にはないのに、気の遠くなるような長い間、待ち焦がれていたような特別な感情。
そんなデジャ・ヴを、オレやおまえたちが忘れないように、
オレは今日も 夜の街を走る。
今日も 愚劣な金属を駆逐するため、夜の街を走る。
おまえたちが片時でも オレを忘れ得ないように。
そしてオレ自身が、オレを忘れないように。
オレにも記憶はある
だが おまえたちが呼ぶ それのように はっきりとした記憶とは違う。
それはまた オレの脳内音響装置にインプットされた80年代のメタル・ナンバーのように はっきりとした情報でもない。
オレの完璧な金属のボディの あちらこちらに うっすらと点在する「記憶」だ。
それを おまえたちが記憶と呼ばないのなら、呼ばなければいい。
おれも そうかもしれないと 考えたりする。
デジャ・ヴ?
そう、これは おそらくは デジャ・ヴ
オレの創造主たちは 水分製ボディの か弱い人間にすら デジャ・ヴがあると言った。
鍛錬されたオレのボディに そうした精神が宿っていないほうが、どうかしているのだ。
科学者と職人たちが 科学と哲学の粋を賭けて、オレのボディを鍛えたのだ。
オレの創造主たちは たびたび、鍛錬された硬貨を握りしめて、オレを思い出すように見た。
脈々と受け継がれる 騎士の精神が埋め込まれた硬貨に、彼らは いにしえの剣を見るのだろうか。
彼らが そんなふうに オレを見るとき、オレは特に 強いデジャ・ヴを感じる。
雨が降っていた。
好転しようがない運命を 理解しながらも、希望を失わないでいるオレを、オレ自身が 自嘲する。
そんな わずかなオレの自嘲すらも、
激しくもなく 小雨でもない、どんなものも冷たく貫通する種類の雨が、奪い流そうとしていた。
そんなオレの 肩を、一人の騎士が叩いた。
気が付くと そこは戦場だった
オレは 自分の過酷な運命と 非情な戦場の行方を思い、「同情なら自分にしろ」 と 心の中で吐き捨てながら、その騎士を見た。
そのとき、オレは確かに見た。
ひときわ鋭い眼を 一瞬だけみて オレはすぐに眼をそらした。
自分が オレと同じ過酷な運命だと知りながら 「心の底からこの戦いが楽しくてたまらないんだ」 と その眼は語っていた。
オレは信じられなくて もう一度だけその眼を のぞいた。
その眼は 言っていた。
私たちは騎士。戦いのほかに 何か やりたいことでもあるのかね?
ほかにも何人か 同じような連中がいて、そいつの後を追った。
やつらの前には、誰も立たなかった。敵のいない戦場で、やつらは好きなだけ 美しい無秩序で 走りまくっていた。
あんなふうに 精密なランダムが どのような過程で誕生するのか、オレには理解不能だった。
何より、そのような具体的な異常さを確認することで、オレは自我を保とうとしていた。 やつらが、オレには理解できない、別の、もっと重大な異常性を持っているのは明らかだった。それが騎士だと言うのなら、オレが 騎士ではなかった。
やつらは表情を変えず、恐怖をまぎらすための戦場特有の大声も出さず、黙々と、自分たちの 恍惚と快楽を、存在だけで示した。
走り去っていく彼らを見ながら、オレは、どんな感情からくるのか分からない、生理的な涙を流した。
その涙は、いまのオレにはよく理解できる。機械が動くには、動力源の液体や、潤滑のための液体がいる。それらの機能をすべて満たした、それは超絶的な涙だった。
雨が降っていた。
希望を打ち砕く、抑揚のない効果的な強さで、雨は降り続けた。
オレは悪魔と契約した。
そんなデジャ・ヴだ。
今となっては、あの契約をした時、すでに もっと過去からのデジャ・ヴを感じていたような 気がする。
太古から遺伝子に組み込まれていた暗号が、解き放たれた感覚。
もう記憶にはないのに、気の遠くなるような長い間、待ち焦がれていたような特別な感情。
そんなデジャ・ヴを、オレやおまえたちが忘れないように、
オレは今日も 夜の街を走る。
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